【監修者】 朝長 英樹
【編著者】 小畑 良晴 塩野入文雄 竹内 陽一 掛川 雅仁
【共著者】 神谷 智彦 浅野 洋 阿部 隆也 有田 賢臣
岸本 政昭 小林磨寿美 近藤 光男 迫野 馨恵
佐々木克典 佐藤 増彦 鈴木 達也 武地 義治
中尾 健 新沼 潮 西山 卓 長谷川敏也
藤野 智子 間瀬まゆ子 棟田 裕幸 山田 貴也
吉田 雅史
※クリックで拡大します。
は し が き
令和7年度税制改正においては、物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げ並びに大学生年代の子等に係る新たな控除の創設を行い、老後に向けた資産形成を促進する観点から、確定拠出年金(企業型DC 及びiDeCo)の拠出限度額等を引き上げ、成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出すために、中小企業経営強化税制を拡充し、国際環境の変化等に対応するため、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置、グローバル・ミニマム課税の法制化、外国人旅行者向け免税制度の見直し等を行い、これらにより、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現し、経済社会の構造変化等に対応する、とされています。
主な改正事項は、本書の目次を一覧していただくと分かるとおりです。
この令和7年度税制改正に関しては、いわゆる103万円の壁の撤廃の問題を契機とする「壁」の見直しによって所得税の基礎控除の控除額の引上げ等の改正が行われることとなっていることに、例年の改正とは大きく異なる特徴があります。
このため、本書においては、この106万円と130万円の「壁」に関する対応を独立の項目として解説を行うこととしました(Ⅱ参照)。
この「壁」は、税に固有の問題ではなく、税と年金の両方に跨る問題となっていますので、この解説においては、この年金の「壁」の問題について、その全体像が分かるように、税の壁と年金の壁の違い(Ⅱ1)から始めて丁寧に説明するように心掛けました。
この「壁」の問題については、本書に取り組む前までは、一人ひとりの日々の生活に直結するものではあるものの、主に政治的な問題ないし政策的な問題と考えていたのですが、本書Ⅱ6の「第3号被保険者制度の在り方と問題点」の原稿などを読んでみて、この「壁」の問題は、我が国の社会の在り方や家族の在り方などを根本から問うものであって、いわゆる選択的夫婦別姓の問題などとも繋がりのある問題ではなかろうかと感じたところです。現在、我が国においては、従来、当たり前だと考えられていた社会の在り方や家族の在り方などが適切であるのかということが根本から問われており、令和7年は、時代の大きな曲がり角になる年となるのかもしれません。
また、令和5年度税制改正によって措置されたものではありますが、防衛財源の確保に関しても、令和7年度税制改正により、法人税とたばこ税について、具体的な実施時期などが決定されます(所得税の具体的な実施時期などに関する決定は、先送りされています。)。この防衛財源の確保のための措置については、簡単な記述に止めていますが(Ⅳ9)、これも大きな時代を画する改正であるように思われます。
そして、適用対象者はあまり多くはないかもしれませんが、国際課税関係の改正(Ⅷ)も、注目すべきものとなっていると考えます。
近年は、国際課税関係の改正が続いているわけですが、特に、平成7年度税制改正によって行われる改正は、OECD において示される課税ルールに我が国の税制を合わせるという観点が明確に出ているように思われます。
今後、我が国の国際課税に関する制度は、我が国の判断で決めるということではなく、事実上、OECD で決められるということになっていくのではないかと思われます。これも、国際化の進展が著しいことからすると、止むを得ないことかもしれません。
その他、個別の改正項目の中では、特に、リースに関する税制の改正が注目するべき改正となっていると考えています。
リースに関する税制の今回の改正は、企業会計基準委員会(ASBJ)から2024年9月に「リースに関する会計基準」が公表され、この基準の適用が2027年4月1日以後に開始する事業年度からとされており、2025年4月1日以後に開始する事業年度からこの基準を早期適用することも可能とされていることに対応する改正となっています。
今年度の税制改正大綱の記述と法人税法の改正案を見てみると、オペレーティング・リース等において、会計処理と税制処理が異なることがあるなど、実務において、十分、注意をしなければならない改正が行われることになりますので、リースの貸し手や借り手となっている納税者は、通達等までよく確認して慎重に対応をする必要があります。
ところで、本書においては、今年度から、助成金・補助金に関する解説(Ⅸ1~4)も行うこととしました。
これは、特に、中小企業においては、税理士だけが経営者の相談相手というところが少なからずあり、そのような企業の顧問となっている税理士には“払うもの”(税金)だけではなく“貰うもの”(補助金や助成金)に関する知見も持っておくことが求められると考えたためです。
これまで、何度か「○○では補助金の予算が消化しきれない」などという話を耳にすることがあり、その度に、非常にもったいないことだと感じていたところです。これからは、税理士の方々も、是非、“貰うもの”(補助金や助成金)に関する助言や申請のお手伝い等もして、従来以上に、企業のために役立つようになっていただきたいと思っている次第です。
以上のように、今年度の本書は、従前のものとはやや異なり、税制の改正事項だけに止まることなく、実務における税以外の関心事項やニーズにも対象を広げて執筆をしたものとなっているわけですが、実務に役立てていただけるという点では、従前のものに勝るとも劣らないものとなっていると考えています。
このような本書を読者の皆様方の実務に役立てていただけるようであれば、執筆者としても、大変、嬉しい限りです。
なお、本書は、「令和7年度税制改正の大綱」(令和6年12月27日閣議決定)に基づいて起稿し、改正法律案に示された改正規定を追記する等によって作成しており、図表等に関しましては、改正内容等を広くかつ正確に伝えるために、財務省及び総務省が作成した資料、経済産業省等が作成した資料なども利用させて頂いているということをお断りしておきます。
最後になりましたが、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に、編著者を代表して御礼を申し上げます。
編著者を代表して
日本税制研究所
代表理事 朝長英樹
税理士 竹内陽一
目 次
Ⅰの1 個人所得税関係の改正(その1)(所得税基準控除(最終案))・1
Ⅰの2 個人所得税関係の改正(その2)
1 基礎控除・給与所得控除・特定親族扶養控除の改正・5
2 私的年金制度の改正・25
3 退職所得控除額の調整計算等の改正による課税の強化・38
4 新生命保険料控除・41
5 エンジェル税制の拡充・45
6 NISA の利便性の向上・51
7 住宅ローン控除・既存住宅改修控除・56
8 在職老齢年金制度と給与収入に関する調整(令和8年度改正予定)・65
9 法人課税信託の株式交付スキームについて給与所得課税の明確化・70
10 公益法人等に対する譲渡所得の非課税措置の改正・75
11 新措置法41の19の課税開始(令和5年度改正)―高水準所得の負担の適正化・84
Ⅱ 106万円等の年金の壁と第3号被保険者問題(被用者保険の適用拡大と年収の壁への対応について(年金部会2024.12.10)=年金法の改正)
1 税金の壁と年金の壁はどこが違うか・93
2 短時間労働者の社会保険加入問題・97
3 令和7年度年金関連法の改正・103
4 この改正により106万円の壁と130万円の壁はどう変わるか・115
5 短時間労働者の社会保険料会社負担の特例・118
6 第3号被保険者制度の在り方と問題点・121
7 企業規模要件の撤廃の令和2年改正後の適用範囲・127
8 被用者保険の拡大と適用拡大対象者数・132
Ⅲ 資産税関係の改正
1 法人版事業承継税制(贈与税)における役員就任要件の見直し・135
2 直系尊属からの結婚・子育て資金の一括贈与の2年延長・139
3 物納許可限度額の計算方法の見直し・147
4 会計検査院報告書による株式評価通達の改正の見込み・152
5 東京高裁総則6項適用否認判決と自社株評価・162
Ⅳ 法人税関係の改正
1 中小企業軽減税率・168
2 中小企業投資促進税制・169
3 中小企業経営強化税制・172
4 法人版ふるさと納税・179
5 社会医療法人、特定医療法人、認定医療法人等の収入要件の見直し・181
6 リース会計基準の変更に伴う税制上の所要の措置・185
7 グループ通算適用会社のスピンオフにおける純資産移転割合等の計算・199
8 非適格合併等移転資産の資産調整勘定算定の明確化・適正化・203
9 防衛財源の確保と税制措置・205
Ⅴ 消費税関係の改正(外国人旅行者免税制度)・214
Ⅵ 納税環境の整備
1 電子帳簿保存法・225
2 eLTAX の利便性の向上・231
Ⅶ 公益法人制度の改正
1 公益法人制度の沿革・234
2 改正の背景とポイント・234
3 財務規律の柔軟化・明確化・238
Ⅷ 国際課税関係の改正
1 グローバル・ミニマム課税への対応・258
2 外国子会社合算税制・274
Ⅸ 助成金・補助金
1 厚生労働省関係補助金・280
2 中小企業庁関係補助金・290
3 経済産業省関係補助金・307
4 国土交通省関係補助金・315